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2021年11月

「今日ね、ハードル競争っていうのをやったんだよ。」

どうやら子供が学校の体育の時間に、
初めてハードル飛びを経験したようです。

「3つのハードルが並んでいたんだけど僕は全部飛べたよ。
 飛び越えながら、全速力で走ることができたんだ。」

そりゃすごいね。

「Eちゃんはドスドス走ってた。」

どすどす?

「うん。Eは太ってるから。」

ぽっちゃり体型の女の子がクラスにいるようです。

「ハードルに体当たりして壊しながら走ってた。」

飛べなかったのね、Eちゃん。

「倒されたハードルを、先生が直してた。」

情景が目に浮かびます。
走るEちゃん。ハードルが飛べずに当たって
弾き飛ばさないと前に進めなかったのでしょう。
Eちゃんが走り去ったあと、横に倒されたハードルを
1つ1つ元通りにしていく先生の姿。

いいじゃないか、Eちゃん。
飛べずに立ち止まってハードルの前でメソメソ泣くよりも
自分の目の前に立ちはだかる障害を
バーンと体で押しのけて進んでいく方がずっとかっこいいです。

私もEちゃんのように強い気持ちで前に進んでいきたいものです。
2021年11月

子供と2人で休日の電車に乗っていると
向かい側に2歳くらいの女の子を連れた母親が席に座りました。
少し離れた扉付近に、
父親が空のベビーカーと共に立っていました。

子供を自分のひざに乗せ
娘の顔を覗き込むように、娘を抱きかかえて座る母親。
子供は少し機嫌が悪いらしく
子供特有の奇声を発していました。

すると母親は むにゃむにゃ声と赤ちゃん言葉で
子供に話しかけ始めました。

「どうちたの?降りたいにょ?違うにょ?
 怖いねー。でんちゃ、怖いねー。だいじょぶよぉ。
 ママがいるから大丈夫。」

子供の体勢がほんの少し横にずれると

「あ、だいじょうぶ?うんうん、あぶなかったね。
 ママ、びっくりしちゃった。
 堕ちちゃうかと思った。よかったぁー。
 ゆぅちゃんが無事でママよかったー。」

いや。。。ほんの5度くらいの角度で
子供の体が左に揺れただけだから。

自分も子供の母親なのでわかるのですが
ああいう時のオンナの脳内には変なホルモンが流れていて
いわゆる「母親である自分に酔っている状態」なのです。

こういうオンナを見て、夫は彼女を可愛いと思うのかしら。
5mほど離れた場所で
ベビーカーを支えて立っている父親を見ながらそう思いました。
同じオンナであり母親である私には
甘ったるい声で子供に話しかけている母親の姿は
ただただ気持ちの悪い光景でしかないのですけれど。

嫌悪感を抱きつつ、
目の前の母親をぼんやりと視界の中に入れていたのですが
ふと考えが変わりました。

母親は子供を抱いています。
子供の靴が座席に付かないように気をつけながら。
スマホを一度もいじることなく
目の中には自分の娘しか入れていません。
娘に「愛している」と確実に伝わっているような話しかけ方で
子供の目を見て、子供と向き合って
この電車に乗っているわずかな時間でも、惜しむことなく
たくさんの親の愛を子供に注いでいます。

素晴らしい母親じゃないですか。

横に座り、ゴジラの人形で一人遊びしている自分の子供に
私は何も話しかけていないことに気付きました。

同じ時間、同じ電車の中で
子供への愛情を態度で言葉で伝えられている目の前の母親と
ただ隣に座っているだけで目もあわせていない私と
どちらが子供にとって幸せかといったら
答えは誰に聞いても明白で
さっきまで目の前の母親に抱いていた嫌悪感が
見事な敗北感へと変わって言ったのであります。
2021年11月

「お母さん、顔が変わってきたね。最近。」

まじまじと私の顔を見つめながら子供が言いました。

そぉ?

気楽に答えた私。

どんな風に変わった?

「うーん。何ていうか。。。」
「なんか、変わったんだよなぁ。。。」

自分の気持ちを表現する的確な言葉が見つからない様子の子供。

『子供の声に耳を傾け、
 決して問いただすことなく、質問で言葉を返すことなく、
 ただただ子供の話を聞いてやることが
 子供の自己肯定感を高める方法である』

前に読んだ育児本を思い出し
ちょっと良い親を気取ってみたくて
うんうん♪と、子供が言葉を探す間にじっと黙っていた私。

「なんかぁー。えっとぉー。」

うんうん♪

「老いてきたというかぁー。」

バキッ

気付いたら子供の頭を殴っていました。

『決して問いただすことなく、質問で言葉を返すことなく、』

本にはそう書いてありましたが、

『殴ることなく』

という記載はありませんでしたので
本に逆らったわけではございません。

「だってだってシミみたいのが出てきたじゃんっっ。」

もう一発殴ったろかと思った途端に
子供はぴゅーっと別の部屋に逃げていきました。
2021年11月

私は朝の駅の売店に寄ることはほとんどありません。

しかし今日は違いました。
朝から体調が少し悪かったのです。

原因はわかっています。
仕事が私の能力を超えてしまったためです。
残業しても残業しても
「人が足りないから」という理由で
次から次へと作業が振られてしまい
息つく暇もなく、精神的にとても苦しい状況です。

体の免疫力が落ちてしまい
明らかに体調を崩しかけています。

そりゃいかん。ビタミン剤を摂取しなくては。
今日の1日を乗り切ることができなくなるわ。

そこで何年かぶりに朝の売店にふらーっと入り
冷蔵庫にあった
・1日のビタミンこれ1本、的な飲み物
・疲れた体に・・・なんて謳い文句に誘われて栄養剤を1本
・ビタミンCたっぷりドリンク1本

3本を手にとってレジのおばちゃんに
お願いします、と言って差し出しました。

事務作業をしていた手を止めて
「いらっしゃいませ」と、思ったよりも低い声で
しかも不機嫌そうに答えたおばちゃん。

ああ、朝から余計なストレスを与えないでほしい。
せめて会社に着くまでは心穏やかに過ごさせてよ。

少し悲しい気持ちになりながら
おばちゃんが商品のバーコードを読んでいる間に
財布を取り出すため、ごそごそとカバンを探っていました。

「ゴーゴーゴー!」

へっ?!なになに何なのっっ?

かなりの低音ボイスでおばちゃんが大きな声で言ったのです。

びくついて顔を上げると
色黒のおばちゃんが、驚いた顔でまっすぐ私を見ていました。
そして次におばちゃんの視線が、
レジの機械へと移動しました。そして、

「555円。ゴーゴーゴーよ。」

疲れた私の頭が急に回転して状況整理を始めました。

「うわぁ。珍しいですね。」

状況整理が終わり、
おばちゃんにマスク越しに笑顔で答えました。

「そうよ!今日、絶対に良いことあるわよ!」

あるかなぁ。今日こそ良いことがあるかなぁ。

「あるわよ!絶対!いってらっしゃい!」

ちょうど来た急行に乗るために
飲み物3つをカバンに入れて駅のホームを小走りに進みました。
さっきまで不機嫌に聞こえていた野太いおばちゃんの低音の声が
人を応援するにはぴったりの強さを持っていることに気付きながら。

売店のおばちゃん、ありがとう。今日もがんばるよ。
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